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一級建築士設計製図試験の近年の傾向

一級建築士設計製図試験の内容は、近年、徐々に高度なものになってくる傾向がありましたが、特に平成21年度以降の試験のための見直しが行われて以来、その傾向が顕著になってきたと考えることができます。以下に試験の実施機関である(公財)建築技術教育普及センターより平成21年に公表された試験の見直しの内容にふれながら近年の試験の傾向について考えてみることとします。

〔1〕建築設計全般に関する基本的な知識・能力等を確認するために
(1)「設計条件」における「所要室」に関し、室構成や床面積等を細かく指定し、これに従った設計図書の作成を要求する従来の方式を改め、室構成や床面積を大括りの設定とするなど、設計の自由度を高める出題とする。

(1)は、従来の試験では、単に予め設計条件として示された室名、室面積に添ったプランニングをすることに偏重していたことに対して、設計者の素養の一部である提案力を評価するために、所要室の面積等を受験者自らが提案することとしたと考えることができます。

以上に対応するために、当該建築物の内容そのものに対する、より広範で深い理解、知識が求められることになります。更に、近年注目されるのは、計画の条件について自由度の高い課題が出題されるようになってきたことです。

計画の条件の自由度が高いということは、例えば敷地に二つの道路が接しているとした場合、通常は二つの道路の幅員が異なるとして出題されることが多いため、幅員の広い道路の方からを敷地へのメインアクセスと考え、幅員の狭い道路の方からを敷地へのサブアクセスと考えればよい訳ですが、仮に二つの道路の幅員が同じである場合は、どちらの道路の方からをメインアクセスと考え、サブアクセスと考えるかは、受験者自身が判断しなければならないこととなり、それが建築計画全体に大きく影響することにもなります。

これは、受験者自身が判断しなければならない余地、すなわち自由度が高くなった課題条件であるといえ、それだけ高度な計画力を有する高度な課題であるといえます。

以上のような自由度の高い条件の課題が出題される傾向が近年みられるようになってきましたが、その傾向が徐々に顕著になってきているといえます。

(2)「設計条件」において、構造設計、設備設計に関する設計条件を設定し、これに対応して、以下の図面等を要求するものとする。
①平面図に耐力壁、設備機器・設備シャフトの位置等を(追加的に)図示
②梁伏図、矩形図等を(新たに)作成
③計画の要点等の記載項目、記載内容の充実

以上により、従来以上に構造計画、設備計画との関連に配慮した建築計画が求められることとなり、また、建築計画、構造計画、設備計画に関する要旨の記述も課されることとなり、従来以上に構造、設備について重要視する傾向が伺われます。

〔2〕専門分化している建築設計を調整し、取りまとめていく基本的な知識・能力等を確認するために
(1)合格基準の設定に関し、配点構成を「空間構成①」と「意匠・計画②、構造、設備」に大別し、「空間構成」に関し、足切り点を設定するものとする。
①建築物の配置計画、ゾーニング・動線計画、所要室の計画、建築物の立体構成等
②図面表現、所要室の機能性・快適性等

以上については、従来の試験においても全体計画、ゾーニング、動線計画等が極めて重要であった訳ですが、特に空間構成に関して足切り点を設定すると記されていることは注目すべき点であるといえます。 なお、ここで記されている空間構成とは、単なる平面計画のことでなく、吹抜けなどによる立体構成を考慮した建築計画のこととであると考えられます

〔3〕従来の試験内容と比較して、受験生に過度な負担を強いることのないように
(1)「設計課題(設計対象の建築物)」に関し、異なる機能を複合させた建築物を出題する従来の方式を改め、比較的シンプルな用途の建築物とするなど、設計条件を簡素化した出題とする。

試験の見直しにより、相対的に受験生に負担が増え過ぎることへの懸念から、課題対象の建築物は、余り機能の複雑なものでないものとするという意図であると考えられますが、実際には試験の見直し後の課題においても、従前と同程度の複雑な機能の課題が出題されているのが実情です。

(2)要求図面は、配置図、平面図、断面図、立面図、伏図、矩形図等の図面のうちから4面程度とし、その他に計画の要点等と面積表を要求する程度とする。

以上については、改めて試験の評価項目を明示したものであるといえます。

近年の設計製図の試験では、以上のように、計画の面での構造、設備の重視や建築計画、構造計画、設備計画の要旨の記述等、様々な留意すべき事項が増えてきているのが実情ですが、近年の試験の傾向としては特に自由度の高い課題条件など、建築計画力を評価する課題内容が徐々に高度なものとなってきているのが、注目される点であるといえます。 建築計画は、空間構成についての足切り点の設定などにもみられるように、試験の合否に決定的な影響を与える合否の鍵となるものといえますが、建築計画力を養成することは中々、短期間では難しいこと、また、建築計画力を養成する勉強のために、課題の対象の建築物が何であるかは直接関係しないことも理解しておく必要があります。

以上から、設計製図試験での合格を確実なものとするためには、できるだけ課題発表前からの適格な課題演習により、建築計画力の養成を図ることが重要なステップであるといえます。

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